2014.1.13 シネ・ヌーヴォーX
スキューバ・ダイビングをやる人ならご存知のウェイト。潜水中に自然の浮力で身体が浮かない様に腰に巻く鉛の錘(おもり)。人はみんな、多かれ少なかれそういう錘(おもり)を腰に巻いてそれぞれの人生を生きている様な気がする。
錘(おもり)によって自由を奪われるのだが、浮力に逆らってある程度の安定を得る事が出来る。そんな浮遊した安定感(?)みたいなものを拠り所にとして生きている人の方が多いんじゃないだろうか?(自分も含めて…)
観終わってそういう事をぼんやりと思った作品。
大阪アジアン映画祭をはじめ多くの映画祭に招待作品として評価されたアジアの映画。マレーシア出身のリム・カーワイが監督、脚本、編集、プロデューサーをこなす意欲作。
香港、ソウル、そして大阪を駆け巡るちょっと悲しげで、すごく素敵な愛(実はこのテーマどうでもよいのだけど)を巡るロードムービー(的な印象)。
このリム・カーワイという人、98年に阪大の工学科を卒業して6年の社会経験の後、北京電影学院の監督コースに入学したというアジアのスパイク・リーみたいなヘンな男。いわゆる中国系監督に有りがちな”映画バカ”や”映画坊っちゃま達”とはひと味もふた味も違う。しなやかにアジアを等身大に描ける希有な存在だと思う。何より色気のわかる監督だと思う。映像しかり脚本しかり、何よりキャスティングがエロ一歩手前の”寸止めな色気”を放っているのだ。今作の主演であるシェリーン・ウォンやペク・ソルアのなんと素敵で魅力的なことか。小橋賢児や竹財輝之助という日本人男優たちも”爽やか過ぎる色気”を醸し出している。
ストーリーは割愛するが、少しだけイジワルな感想を付け加えるとすれば、ミナミで恋をしているのは♂の方で、♀は別にキラキライルミネーションなど無くても監獄でも地獄でも恋の出来る野蛮さを持ってるなぁ…としみじみ感じ入ったこと。とはいえ今のリアルな香港、ソウル、そして大阪が描かれている。「アジア三都市を結び…」などという陳腐なコピーでは語れない。リアルな人間模様が必然的にうまく三都市間を浮遊しているという感じ。
そして何より大阪ミナミの堀江や心斎橋、生野あたりが本当にステキに美しく描かれている。ここらはやっぱ阪大時代のリアルな大阪感がそうさせているんだろうと思う。これは絶対に東京には当てはまらない、絶対的な大阪感が展開されているのである。
「最近の日本はダメだ」とか「大阪はもうアカンで」などと自信を喪失している関西人こそ是非とも観ておくべき映画だと思う。ソウルや香港からみた日本はもはや隣国の大都市ではなく、単なる駅名的な感覚なのだという事がわかる。そして大阪もそんなに捨てたもんじゃないと勇気が湧いて来る映画なのだ。優しい気持ちになって、心に羽が生えた様な軽やかさをもって劇場を後に出来る映画らしい映画。
すぐにDVD化されるとは思うが、是非ともスクリーンで観てほしい映画であることは確かだ。まさに男の為のハーレクインロマンス(爆)とまで言ってしまっては可哀想だろうか???
入場時に貰った「オフィシャルMovie&Cityガイドブック」も楽しめる内容で必読。出てくる撮影現場は大阪人ならみんな知ってる店ばかりではあるけども、まぁそんな情報を知る事が目的でもないしね。
『Fly To The MINAMI〜恋するミナミ〜』オフィシャル・サイト